2022年 3月 第4巻 第2号 掲載 研究報告査読なし
要 旨
公認心理師の業務の 1 つである「心の健康教育」は,その対象を広く国民全体とし,かつ他の業務にも潜在的に含まれているなど,心理師の業務においてある種の遍在性を帯びている。これはヘルス・プロモーションの推進や,Jorm の提唱した「メンタルへルス・リテラシー」に関する国際的な動向と連動している。本論では,まず,患者が自身の疾病のリスクを「実感」して行動を変容することを促すために,医療者がいかにレトリックを用いているかをめぐる磯野(2021)の議論を参照し,心の健康教育において,特にうつ病や薬物防止の啓蒙表現におけるレトリックの使用について批判的に検討した。また,伊藤(2020)のウェルビーイングに関する視点をもとに,能力を個人に帰属させる「予防」的な能力観に対比的に提示される,対人的なネットワークやコミュニティの中で実現される「予備」的な能力観から,心の健康教育について再考した。最後に,「予備」的視点による心の健康教育の可能性を探索的に検討するために,フォーカシングの活用可能性について考察した。
key words : mental health education, mental health literacy, rhetoric, focusing, bodily feeling
キーワード : 心の健康教育,メンタルヘルス・リテラシー,レトリック,フォーカシング,実感
Kobe Gakuin University Journal of Psychology
2022, Vol.4, No.2, pp.79-89