2026年 3月 第8巻 第2号 掲載 研究報告査読なし
要 旨
本研究は,足関節脱臼骨折という身体的外傷を負った市民ランナーであり臨床心理専門職である筆者が,約1年間にわたる回復の軌跡を記述・考察したオートエスノグラフィである。かつて走ることを生活の主軸に据え,目標達成志向によってアイデンティティを形成していた筆者は,受傷という「強制終了」により「走る私」を一時的に喪失した。このプロセスを通過儀礼の枠組み(分離・境界・再統合)で捉え直した。考察において,外傷体験が人生後半の「山下り」へと向かう転換点となり,アイデンティティが上昇志向から身体感覚を味わう在り方へと再編された過程が示された。また,医療的な完治後も心理的な変容は継続しており,顕著な症状を伴わない場合でも,内面的な意味の再編成という臨床的に重要なプロセスが進行し得ることが示唆された。
Key words : autoethnography, physical trauma, recreational runner, identity transformation, rites of passage.
キーワード : オートエスノグラフィ,身体的外傷,市民ランナー,アイデンティティの変容,通過儀礼
Kobe Gakuin University Journal of Psychology
2026, Vol.8, No.2, pp.99−108